掲載記事 >> 「The Sax 第8号」

練習場所にお困りのサックス愛好家に強い味方が登場!
サックスのミュート"ミューサク"、その実態とは?


○「ミュート」って知っていますか?

 「ミュート」。サックス吹きにはちょっと縁遠い言葉かも知れない。トランペットなどの金管楽器においてよく使われる、ベルに蓋をするように装着して弱音効果を得るという道具である。金管楽器はベルと呼ばれる一つの穴から音が出るため、そこを塞げばよい話。だが木管楽器はどうだろう。キィがたくさんあり穴だらけ、ベルに蓋をしてもそのキィ穴から音が出てしまう。木管楽器のミュート? 謎は深まるばかりである。

 写真1を見てほしい。そう、この小さなとんがり帽子とカップこそが、満を持して生まれたサックスのミュート“ミューサク”なのだ。使い方は簡単、このとんがり帽子(cap)をネックの内側に装着してマウスピースをセット、次にカップをベルに軽く乗せる。これだけで、弱音効果測定によれば平均値約12db、最大値で約30db音量を下げることができるという。10db下がればだいたい半分くらいの音量に聞こえると言えば想像がつくだろうか。

○プロ奏者の経験を元に生まれたアイテム

 “ミューサク”を開発したのは、サックス演奏・指導・ヴォイストレーニング・MIDIデータ制作など様々な活動を展開するマルチ・ミュージシャン、松本泰幸氏。国立音楽大学卒業後、ジャズ・ライブハウス等での演奏活動を始めた氏は、自身の演奏を通してサックス吹きにとって何が必要なのか考え始めたという。息の流れを、音の響きを首でせき止めてしまう“首かけタイプ”のストラップでは満足のいく音が出せないと感じ、両肩で支えるストラップを製作したことも(幼少期、身近にあるものを利用してミニ扇風機や電動消しゴムを作って遊んでいた氏にとってみれば、必要だけれど売っていないものを自分で製作してしまうことは当たり前)。プロのミュージシャンが必要を感じて作ったものなのだから、その効果はお墨付き。今では実用新案を取得して商品化もされている。そんな折、氏のもとにストラップ購入者から一通の手紙が届く。「サックスのミュートは出来ませんか?」これはかねてから考えていたことでもあった。レッスンを受けに訪れる生徒たちから、練習場所がない、上達しない、という悩みをしばしば 聞いて いたからである。このままではいけない「何とかしなくては」との強い思いから、すぐさま氏は道具・素材のメッカ"東急ハンズ"へ走り、一気に実現化させた。

○息の使い方も習得できる!

 「音を小さくするには、少ない息で吹けばいい。ならば管内に入る量を減らしてしまおうと考えたんです。最初は入れた息を外に逃がすよう、中に細い管を通す方法をとりました。でも、そうすると内径が変わるためピッチも全く変わってしまったんです。それで発想を変えました。ネックは空洞だから息が全部素直に入って音になってしまう、それなら息が全部入らないようにすればいい、そこに抵抗をつけようと」。そこで今の形とほぼ変わらない、試作品第一号が誕生した。それから氏は幾多の試作を重ね、ついに現在のものに至る。さらに、商品化するために製作工場の技術者と協議を重ね、着々と準備を進めていった。「最初はとんがり帽子のような形ではなく、筒にしていたんですが、抵抗が少なすぎたので円錐形にしたんです。それならば息は拡散されても方向性も持ちます。フィルターを通すような感じだからfで入ったものはmfになる。このフィルター、すなわち円錐部分に、最初は吸音ネットを採用しましたが、水気を含んですぐに使えなくなったので水はけがよくいろんな形に対応できるネットを探して採用しました。このネットは円錐部分だけでなく、リングにも張り巡らせています。リングはゴムです。楽器メーカーによって少しサイズが違うネックに隙間なく入らなければいけないので、傾斜が付けてあります。カップは革製で手に持った感じも優しく高級感のあるものになっています。中は吸音素材が入っています。」
 ここで実際に松本さんが吹いて聴かせてくれた。なるほど、はるかに音は小さい!それに、丸くてやさしい音になるのだ。
 プロの奏者ならばもともと少ない息で音を鳴らすことが出来ても、初心者にそれは無理な話。サックスとは、精一杯の息を使わないと音を出すことができないと“思い違い”をしているところがある。そこでこの“ミューサク”を使って練習を続ければ、少ない息の量でも音は出るということからppを出すための理屈が分かり、その吹奏感を習得することもできるだろう。実は、松本氏の思惑にはそのことも含まれていた。これはあくまで練習用のためのサキソフォーン・ミュートである。悩みの種だった練習場所の問題を解決してくれるだけでなく、息の使い方まで習得できる、まさにサックス愛好家の強い味方。読者の皆さんもぜひ、その威力を体験してほしい!

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